相続対策・安定株主対策として従業員持株会は中小企業において幅広く用いられている制度です。持株会を設立する際、従業員持株会に供給する株式は無議決権株式とするとともに配当優先株式とすることが多々見られます。これは従業員による経営関与を廃除し、同族経営者の意思決定力に影響を及ぼさないようにする為だと思われます。
しかし、株式は議決権以外にも多様な権利があります。今回は従業員持株会に供給する株式の種類や持株比率を決定する際に、予め把握しておくべき株式の権利についてお話させて頂きます。
単独株主権と少数株主権
株式がもつ権利は大きく分けて自益権と共益権に分かれます。自益権とは株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする権利をいい、共益権とは株主が会社の経営に参与することなどを目的とする権利を言います。
そして共益権は更に単独株主権と少数株主権に分かれます。単独株主権とは、株主の持株比率や議決権比率に関わらず、会社の株式を一株でも保有している株主に生じる権利で、代表的なものに株主代表訴訟提起権があり、少数株主権とは会社の発行済株式総数または議決権総数の一定割合を保有している株主に生じる権利で、代表的なものが会社の発行済株式総数または議決権総数の3%以上保有している株主に権利が生じる帳簿閲覧権があります。
自益権 |
剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、株式買取請求権、名義書換請求権、単元未満株式売渡請求権など |
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共益権 |
単独株主権 |
議決権、累積投票請求権、取締役等の違法行為差止請求権、代表訴訟提起権など |
少数株主権 |
総会召集権、会計帳簿閲覧権、役員の解任請求権、解散請求権など |
ここで、注意しておきたいのが、持株会の株主に議決権を行使されることを防止する為、持株会に放出する株式を無議決権株式としたとしても、持株会の株主の会社に対する一切の権利行使が廃除されたわけではありません。議決権がなくとも、単独株主権である代表訴訟提起権や一定以上有していれば少数株主権である帳簿閲覧権という権利は有しておりますので、無議決権株式にしておけば安心というわけではありません。場合によっては、従業員持株会の構成員に株主代表訴訟権を行使されたり、帳簿閲覧権を行使されたりする恐れがあります。
したがって、従業員持株会の株式は無議決権だから、又はオーナー経営者サイドで特別決議を可決できる3分の2以上を保有しているから万事安心というわけにはいきません。各会社の事情や状況に即して、持株会に供給する株式の種類及び持株比率を決定していく必要があるように思われます。
問合せ先:0120-944-733
事業財産承継部:清水
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