企業規模が大きくなると事業部制を導入する企業も多いようです。以下の事例は、ある企業で実際にあった出来事です。
この企業では事業部の事業計画の策定は事業部長に一任していました。
A事業部は取扱い製品がパッとせず、過去2年間赤字決算になっていました。そして今年も例年のようにA事業部の事業部長は、年間の事業計画を立案しましたが、どう工夫しても年間500万円の赤字で食い止めるのが精一杯であるという結果になりました。
事業部長は、眠れない夜を幾晩も過ごし、どんなに努力してもこれ以上の上積みは無理であるという結論を出し、赤字の計画書を社長に提出しました。
しかるに、計画書を見るなり社長は一喝したのです。
「事業部長、計画の段階から赤字とは何事か。どうにかして黒字にするのが君の務めではないか」と。
抗弁は許されません。事業部長は、仕方なく実現の可能性のないことを承知の上で多額の売上高を上乗せして、300万円の利益を計上した事業計画書を再提出したのです。
1年が過ぎた時、結果は200万円の赤字でした。それでも当初計画よりも赤字金額を300万円も圧縮した成績でした。
事業部長は社長に言われました。
「事業部長、君は自ら作成した事業計画を達成できないとは何事か。責任をとってもらうよ」と。
事業部長は退社しました。今はかつて得意先であった会社へ就職して販売員をしています。
この会社の社長は二重の誤りを犯した上に、有能な社貝を一人失ったのです。誤りの一つは、A事業部の最終の事業計画は経営者自らが決断しなければならないことであり、二つ目の誤りは、経営者が負うべきA事業部の赤字決算の結果を部下に責任転嫁したことです。
企業の盛衰を左右する重要事項は、すべて経営者が意思決定をすべきです。
事業部の事業計画も、事業部の実績も企業の盛衰を左右する重要事項です。
こうした重要事項を決断することは、すべて経営者の職務なのです。事業部長から案を提出させることは良いことですが、それを採用するか修正するかの決断は、経営者の仕事なのです。
また、事業部の成績を上げるために、期中に具体的な対策を事業部長に助言することも経営者の仕事です。事業部の最終成績が悪かったことをすべて事業部長の責任にしたことはまちがいです。
この他経営者が意思決定をしなければならない業務を挙げれば、次のようなことが挙げられます。
1、人の採用と教育の基本方針
2、仕入・購買の基本事項
3、製造に関する基本方針
4、商品開発の基本方針
5、販売に関する基本的な戦略
6、資金繰りについての重要事項
7、経理方針
8、その他、経営を左右する重要事項のすべて
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