いよいよ12月となりました。12月といえば、6月と並んで賞与の支給時
期です。そこで、今回は賞与の支払いと育児休業等の関係を判例とともにご
紹介いたします。
▲賞与を支給するか、誰に支給するかは自由
賞与などの臨時の賃金を制度として支給する場合には、就業規則にその支払
に関する規定を定めておく必要があります。そして、賞与の支給基準、支給
額や支給方法などは、労使間の合意や使用者の決定により自由に定めること
ができることから、賞与の支給対象者を「支給日に在籍する者」といった
「支給日在籍要件」を定めることも有効とされています。(大和銀行事件
最一小判昭和57.10.7)
したがって、例え支給対象期間すべて勤務したとしても、支給日に在籍して
いない者へ賞与を支給しないとすることも有効とされています。
▲支給対象期間中に育児休業等を取っていた場合
では、支給日に在籍はしているが、支給対象期間中に産前産後休業や育
児休業を取得していたために出勤率が低い場合はどうでしょうか。
賞与の支給基準や支給額の算定にあたって、出勤率を考慮している場合等は、
休業している従業員に不利益になるので問題になります。
前述のように、賞与の支給要件は自由に定めることができること、及び産前
産後休業や育児休業中の賃金は法律上当然に保障されているわけではないこ
とからすると、賞与を不支給にすることや減額支給にすることも可能である
と考えられます。しかし一方で、こうした取扱いが女性や育児をしようとす
る男性に認められた権利の行使の妨げになるのではないかとも考えられます。
この点、判例は、90%の出勤率を賞与支給の要件としつつ、産前産後休業及
び育児のための勤務時間短縮措置による短縮時間分を欠勤扱いした事例につ
いて、
「・・・労働基準法65条及び育児休業法10条の趣旨に照らすと、これにより
上記権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等が上記権利等を保障した
趣旨を実質的に失わせるものと認めらる場合に限り、公序に反するものとし
て無効となると解するのが相当である。」とし、「・・・本件90%条項のう
ち、産前産後の日数及び勤務時間短縮措置による短縮時間分の取扱いに関す
る部分は、上記権利等の行使を抑制し、労働基準法等が上記権利を保障した
趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反し無効である」
としています。
(東朋学園事件 最一小判平成15.12.4 )
ただし、上記判例は、「各計算式は本件90%条項とは異なり、賞与の額を一
定の範囲内でその欠勤日数に応じて減額するにとどまるものであり、加えて、
産前産後休業を取得し、又は・・・勤務時間短縮措置を受けた労働者は、法
律上、上記不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、就業規則にお
いても、上記不就労期間は無給とされているのであるから、賞与額算定の際
に産前産後休業及び勤務時間短縮措置を欠勤と評価する旨の給与規定は、労
働者の上記権利の行使を抑制し、労働基準法等が上記権利等を保障した趣旨
を実質的に失わせるものとまでは認められず、・・・直ちに公序に反し無効
なものということはできない」とし、産前産後休業や育児時間等の不就労日
数を減額の対象とすること自体は認めています。
▲就業規則の整備
トラブルを未然に防ぐためには、就業規則に、①賞与支給の要件としての出
勤率の算定にあたっては、産前産後休業や育児のための短時間勤務の短縮分
を欠勤として扱わないが、②賞与額の具体的算定にあたっては、産前産後休
業や育児のための短時間勤務の短縮分を減額の対象とすることがある、等の
規定にしておくなどの対応が必要です。
御社の規定に問題がないか確認することをお勧めいたします。
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