年末の準備に向けて、忙しい毎日を送っている方も多いのではないでしょう
か。仕事量が増えると労働時間が長くなることもあるため、前回は労働時間
についてお伝えいたしました。労働時間ではないと認識していた時間が労働
時間に該当すると判断されると、法定労働時間を超えてしまい、思わぬ残業
代を支払わなければならないケースもあります。そこで、今回はあらかじめ
定額の残業代を支払う「定額残業制」について、判例を通してご紹介いたし
ます。
▲定額残業制とは
定額残業制とは、毎月の月例給与に、例えば「30時間分の残業代を含む」と
いうように、あらかじめ一定時間の残業代を定額で支給する制度のことです。
もちろん、あらかじめ規定していた時間に実残業時間が満たなかった場合で
も、定額で残業代は規定どおりに支払わなくてはなりません。
逆に、実際の残業時間が規定の残業時間を超えた場合には、超えた分の残業
代を支払う必要があります。
▲定額残業制のメリットとは
定額残業制のメリットはいくつか考えられますが、主なメリットとしては、
①能力の低い社員が、残業代を多く支払われることによって給与が高くなる
という矛盾を回避し、社員の公平性を確保する。
②毎月・毎年の賃金コストをある程度固定化できるため、人件費計画を立て
やすくなる。
などが考えられます。
しかし、全く自由に内容を決められるわけではなく、定額残業制を導入する
にあたり、いくつかの注意点があります。
▲導入するにあたっての注意点
定額残業制を導入するにあたって、
①何時間分の残業代が給与に含まれているか明確にする
②あらかじめ規定した残業時間を超過した場合には、超えた分を追加で支払
う旨を明確にする。
という注意点がありますので、以下それぞれについて説明いたします。
①について
たとえば定額残業代込で月額25万円を支給する場合、25万円に何時間分の
残業代が含まれているかを明確にしなければなりません。
この点について、歩合給で勤務していたタクシー会社の乗務員が、深夜・
時間外労働をしても、歩合給以外は支払われなった事例で、会社側の歩
合給には割増賃金が含まれていたという主張に対して、判例は
「歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合において
も増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外
及び深夜の割増賃金にあたる部分とを判別することもできないものであっ
たことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して、法37条
の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難」
とし、通常の労働時間にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを区別する
ことを求めています。
(高知県観光事件 最二小判平6・6・13)
また、最近出された別の判例でも、
「本件雇用契約は、・・・月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がさ
れても、基本給自体の金額が増額されることはない。・・・<中略>・・
・上記約定においては、月額41万円の全体が基本給とされており、その一
部が他の部分と区別されて労働基準法(…)37条1項の規定する時間外の
割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれない以上、上記の割増賃金
の対象となる1か月の時間外労働の時間は、1週間に40時間を超え又は1日に
8時間を超えて労働した時間の合計であり、月間総労働時間が180時間以下
となる場合を含め、月によって勤務すべき日数が異なること等により相当
大きく変動し得るものである。そうすると、月額41万円の基本給について、
通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に
あたる部分とを区別することはできないものというべきである。」
と判断しています。
(テックジャパン事件 最一小判平24・3・8))
従って、定額残業制を導入するにあたっては、通常の労働賃金にあたる部
分と割増賃金にあたる部分とを就業規則等で区別しておくことが必須にな
ります。
②について
たとえば30時間分の残業代をあらかじめ含んでいたとして、実際には40時
間の残業をした場合には、10時間分の残業代を追加で支払わなければなり
ません。
上記以外にも、例えば80時間の残業代を含めるなど、あまりにも多くの残業
時間を含めてしまうと、従業員が健康を害したときに、安全配慮義務違反を
問わる可能性が大きい事にも注意が必要です。最近では、従業員に脳・心臓
疾患等が発生した場合には、労働時間が長くなればなるほど、その原因は長
時間労働をさせた会社にあると判断され易くなっています。そのため、適切
な残業時間を設定する必要があります。
▲まずは就業規則に規定を
定額残業制を導入するには、上記で述べた注意点に気を付け、就業規則等に
明確に規定しておく必要があります。
また、実際に導入する際には、従業員にとって労働条件の不利益変更になる
ケースが多いので、その場合は全員から同意書を提出してもらう必要もあり
ます。
以上の点に注意をしていただき、一度検討されてみてはいかがでしょうか。
最近のコメント