リーマンショックなどの金融不安による景気悪化を受け、最近
新卒学生の採用内定取り消しが相次いでいると報道されています。
厚労省が現在確認しているだけでも、大学生で302人、高校生で29人
に上るそうです。今後は特に悪質なケースについて、企業名を公表
する措置も取ることになっています。
ところで、新卒学生の採用内定とはどのような性格のものなので
しょうか。
採用内定は通常、内定取消事由などを記載した「内定通知」を学生
に送り、学生が誓約書を提出することで成立しますが、過去の判例
からは「始期付解約権留保付の労働契約が成立している」と解されて
います。難しい言葉ですが、要は、「卒業後」を労働契約のスタート
として、それまでに内定者に何らかの内定取消事由に該当する
ことが生じたら解約できる(解約権留保)ということです。ただし、
内定取消事由は通常の解雇と同様に「客観的に合理的で社会
通念上相当と認められるもの」に限定されています。
また、採用内定通知などに記載されていない理由が学生側に生じた
場合でも、内定を取り消すことができる場合がありますが、こちらも
「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないよう
な事実であって、客観的に合理的な理由」に限られます。具体的には
これまで次のような事例が認められています。
①卒業予定だった高校や大学を卒業できなかったとき
卒業を前提に採用しているので、原則として取り消しが認められる
でしょう。
②提出書類に虚偽の記載を行なっていたとき
履歴書やエントリーシートなどに重大な虚偽があった場合には、
取り消しが認めれる可能性があります。
③健康状態の悪化
採用内定後に、入社後の勤務に耐えられないほど深刻に健康状態が
悪化した場合は、取り消しが認められる可能性があります。
④非違行為の判明
採用内定後に、重大な犯罪行為を行なった場合には、取り消すこと
が認められる可能性が高いと思われます。
このように、採用内定の取り消しが認められるケースはありますが、
基本的には通常の解雇を行なうのとそれほど変らないくらい厳しい
ハードルを課せられていることがお分かりいただけると思います。
さて、ここまでは学生側の事情による採用内定の取り消しについて、
ご説明してきましたが、今回の金融危機で相次いでいる、経営悪化を
理由としたような会社都合による採用内定の取り消しは、どのように
考えられているでしょうか?
もうお分かりになるとは思いますが、会社都合の場合であっても、
通常の解雇を行なうのと同じくらい厳しいハードルがあります。
具体的には整理解雇のときに用いられる次の4つの要件を、採用内定
に当てはめて考えることが必要です。
①内定取り消しの必要性
経営状態の悪化と内定取り消しの関連が問われます。
②回避のための努力
内定取り消しを避けるために、経営努力を尽くしたかどうかが
問われます。
③内定取り消しの基準と人選の合理性
既存の従業員も含めた人選の合理性が問われます。単に内定者を
雇用の調整弁的に取り消したのでは合理性が否定される可能性が
あります。
④手続の妥当性
どうしても内定を取り消さなければいけない場合は、内定者に
対して誠実かつ十分に説明しなければなりません。
このように、新卒学生の採用内定取り消しは、法律的に非常に
難しいことですし、学生のその後の人生にも大きな影響を及ぼして
しまいます。また、当該企業の内定決定後、他の企業の内定を断った
り就職活動の継続が困難になった場合には補償問題にも発展します。
従って、採用内定の取り消しを考える際には、今回ご紹介したこと
などを考慮して、慎重に判断して下さい。
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