社員が病気やケガをすると、長期にわたり会社を欠勤する場合がありま
す。長期に欠勤されてしまうと、業務運営に支障が生じてきます。そこで、
会社としては、その社員を休職にするのか、解雇にするのか、また、欠
員をどのように補充するか考えなければなりません。対応を決めるた
めの基準になるのは、どの程度で仕事に復帰できるかという症状の程
度です。
その症状を客観的に見極めるために、会社が独自に指定する医師
の診察を受けさせる場合があります。しかし、社員はその診断結果に
よって、会社から解雇を言い渡されることをおそれ、受診を拒むことが
あります。「どの医師の診察を受けようと、それは個人の自由であり、
会社に指定する権利はない」と。
社員のこのような態度は、認められるものなのでしょうか。そして、会
社は医師の診察を指定することはできないのでしょうか。
会社にとって、自らが指定する医師の診察を受診させることのメリット
といえば、第三者の客観的な判断が得られるということです。社員の担
当医の場合、社員から症状を軽くした診断書を書くように依頼され、正
確な診断が得られない場合がありうるからです。
一方、社員にとって、会社の指定する医師の診察を受診することは、
診察結果によっては解雇など、社員にとって不利な取り扱いを受ける
場合があり、なかなか受診したがりません。また、病気やケガによって
は、担当医でないと正確な診断ができない部分もあり、第三者である
会社の指定する医師の診断のほうが客観的かつ正確であるとは必ず
しも言い切れません。
しかし、会社としては少しでも客観的な診断から処遇を決定したいと
考えますので、会社の指定する医師と社員の担当医の両方から診断
書を求めようとします。
そして、長期間労務不能と判断すれば、就業規則にしたがって、休
職や解雇を行います。
はたして、会社はこのような受診命令を社員に対して行うことはでき
るのでしょうか。
判例では、社員が診療を受けることの自由と医師選択の自由を有す
ることは当然のことであるとしています。しかし、労働契約または就業規
則において、ある一定の条件(欠勤7日以上など)のもとに会社の指定
する医師の診断を受診させることを盛り込むことは当事者の自由意思に
基づいて行われるのであれば可能であるとしています。
そして、この契約に基づき受診させることに合理性があり、また社員の
有する医師や治療方法を選択する自由を制限するものでなければ、社
員に対して、会社の指定する医師の診察を受診させることは可能であり、
社員には受診義務が生じます。
ちなみに、ここでいう受診させることについての合理性とは、早急に欠
員補充の可否や補充期間等を判断しないと業務に支障をきたす場合や、
会社の業務に精通している医師の判断が必要な場合などがあげられま
す。(製造業や運送業等における作業と傷病との関係性に関する知識な
ど)
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