平成22年7月16日、最高裁判所で医療法人の増資時の出資評価を巡る争いに関する判決が言い渡されました。今回は、この判決内容について解説します。
1.事実関係
・医療法人の定款において、財産を基本財産と運用財産に区分している
・基本財産は解散時に国又は地方公共団体に帰属
・退社時の払戻し及び解散時の残余財産の分配は、運用財産についてのみ行う
・定款上、払戻し等に関する定款変更はできないと規定
・平成10年5月に1口5万円で90口の増資を行う
・増資時点で、運用財産のみの評価は17億円の債務超過(基本財産は24億円の評価額)
・国側は、財産全体で評価をし、1口当たり379万円の評価額であると認定、5万円を超える分について、贈与税を課税
今回の判決のポイントは、運用財産のみでは債務超過にあった医療法人への増資に対して、基本財産も含めた財産全体で評価をするべきなのかということです。
2.判決内容
結論としては、基本財産も含めた財産全体での評価をし、贈与税課税を行った国側の課税処分は適法であるということなりました。
その理由として、持ち分の定めをなくした場合には、後戻り禁止規定(医療法施行規則第30条の39.0)がありますが、基本財産と運用財産の区分に関しては、特に法律で定めた規定はないため、定款上で変更不可と定めたとしても再度変更可能であると解釈できるからです。
しかし、出資者側としては、実際の払戻し額は運用財産のみと定款で定めている以上、実際の脱退時に運用財産のみで払戻しを受けた場合には、今回の贈与税課税は不相応に高額の課税がされたということにもなりかねません。今回の判決は、現行の課税実務を認めた形になりますが、医療法人の出資持分についてはまだまだ多くの問題点を残すことになります。
3.今後の法整備の必要性
医療法人の出資持分に関する現状の対策としては、出資持分を放棄して持分の定めをなくすことがありますが、様々な問題により実行に移せない医療法人が多いことと思います。今後、特定医療法人化や社会医療法人化というハードルの高い要件を満たさなくても、多くの医療法人が適用可能な事業承継税制が導入されることにより、医療機関の永続的な運営に支障が出ないような法整備がなされることを期待します。
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